
2025年6月20日
車の馬力とは?実は正確に知らない単位をルーツから紐解く
車について調べていると、カタログに書かれた馬力(最高出力)の表記が目に入ります。
馬力の文字からもわかるように、元は馬を基準に生まれた単位です。
面白いことに、近年の車は馬1頭よりもはるかに強力なエンジンを搭載しているにもかかわらず、現在もなお、軽自動車からスーパーカーまで同じ単位が使い続けられています。
今回は、18世紀の産業革命時代に生まれた馬力という単位について、そのルーツから計算方法まで探っていきます。
目次
1 エンジンが発生する仕事率を表す車の馬力
車の馬力とは、エンジンが発生する仕事率を表す単位のこと。
実際の馬の力とは異なり、1馬力=1秒間につき75キログラムの物を1メートル動かす仕事量のことを指します。
この1馬力は輓馬(荷を引く馬)が継続的に荷を引っ張る際の仕事率を基準にしており、実際の馬は瞬発的にはより大きな力を発揮することができるのがポイント。
日常生活で例えると、75kgの成人男性を1m持ち上げる作業が1馬力に相当します。つまり、成人男性でも、瞬発的には1馬力以上を発生させられることがあるのです。
一方、普通の大人が継続して出せる力は約0.2〜0.3馬力程度とされており、1馬力を遥かに下回ります。
人が継続して車と同様の馬力を発揮しようとした場合、64馬力の軽自動車相当でも、大人200人以上が力を合わせる必要があるということ。300馬力のスポーツカーなら、なんと大人約1,000人分もの力を持っていることになります。
2 古い歴史をもつ馬力の由来
馬力という単位の歴史は、18世紀の産業革命時代にまで遡ります。
元々、馬力という単位の由来は、ジェームズ・ワット氏が蒸気機関の能力を示す際、荷役馬1頭のする仕事を基準としたことが始まりです。
蒸気機関を実用化し、産業革命に大きく貢献したワット氏は、その性能を数値で表せる単位が必要と考えました。そこで同氏が注目したのが、当時の主要な動力源とされていた馬の力です。
ワット氏は馬に荷物を引かせて観察し、その結果を基に1馬力を「75kgの物を1秒で1m動かす力」として定義しました。
このように馬力は、新しい技術を既存の馴染み深いものと比較するために生まれた単位なのです。
3 馬力の単位や測定方法について
馬力を表す単位は、国や地域によって異なり、主に「kW」「PS」「HP」の3つの表記が使われています。
kW
車の馬力を表す単位としては国際単位系のWが用いられています。
一般的にkWが用いられる車のカタログでは、1馬力=0.7355kWとして表記されています。この表記には、1999年に日本の計量法が改正され、計量単位令第11条第2項にて1仏馬力=735.5Wとして定義されました。
PS
メートル法を用いて求められるPSは、メートル法の発祥国であるフランスにちなんで仏馬力とも呼ばれます。しかし実はPSはフランス語ではなく、ドイツ語で馬の力を意味する「Pferdestärke」の略称です。
HP
HPは仏馬力と同じく、英語で馬の力を意味する「Horse Power」の略称です。イギリスが定めたヤード・ポンド法求められるため「英馬力」とも呼ばれています。主にイギリスとアメリカで用いられており、仏馬力に換算すると1HP=1.01387PSの計算です。
現在の日本では、1999年に改正された計量法によって国際単位系のWが用いられていますが、一部においては法定計量単位として仏馬力が特例的に認められています。
特に車のエンジンに関しては、新計量法導入から20年以上経過した現在においてもキロワット(kW)表記が一般にほとんど浸透しておらず、メーカーのカタログなどの資料では依然としてkWとPSが併記されているのが実情です。
4 馬力とトルクはどう違うの?
馬力とトルクは、どちらもエンジンの性能を表す指標ですが、両者は全く異なる性質を持っています。
馬力は、エンジンが発生する最高出力、つまり速さを示す数値です。一方、トルクは、車のタイヤを回すための力のことで、トルクが大きければ大きいほど回転しようとする力が大きくなります。
分かりやすく自転車で例えると、ペダルを踏み込む力がトルクとされ、その力が大きいほど自転車が加速する力は強くなります。
馬力の計算式を見るとわかりやすいのではないでしょうか。
馬力=トルク×エンジンの回転数×定数(0.00136)
馬力は、トルクにペダルの回転数をかけた数値、つまり出力が大きいほどスピードを出しやすくなります。そのため、トルクが大きければ速い車というわけではなく、回転数が伴わなければ車は速くはなりません。トルクはあくまでも加速するための力です。
一方、物体をどのくらいの力でどれくらいの距離を移動させることができるかを数値化した馬力は、大きければ大きいほど車の加速性能や最高速度は速くなります。
5 国産車の馬力規制について
かつて日本の自動車業界には、自動車メーカーが自主的に最高出力を280馬力に抑える馬力規制という興味深い取り決めがありました。
5-1 1980年代の280馬力規制
規制のきっかけとなったのは、1989年に発売された日産車です。
当時の日産は、Z32型フェアレディZで日本車として初めて300馬力に到達。それに加えてBNR32型スカイラインGT-RやG50型インフィニティQ45の3車種が、300馬力でリリースされる予定でした。
しかし、運輸省(現:国土交通省)が行政指導に乗り出したことから、日産は3車種の最高出力を280馬力に抑える自主規制を実施。
この出来事により、日本自動車工業会は日産が行った自主規制の280馬力を規制上限とし、それ以上のエンジンを搭載した日本車の型式認定が制限されることとなったのです。
輸入車や、改造車として規制以上のモデルを販売可能な日本自動車工業会に加盟していないメーカーなど、一部例外はあったものの、国内の主要自動車メーカーが規制対象となったため、国際戦略の面では日本車が不利になる状況となりました。
この規制の背景には、1980年代の自動車メーカー間の激しい馬力競争と、それに伴う交通事故死者が急増という社会問題がありました。
ところが、2000年代に入ると交通事故死者数が減少し、馬力規制は本来の目的を失います。2004年6月30日には、日本自動車工業会が280馬力規制撤廃を国土交通省に申し出たことにより、終焉を迎えました。
5-2 今も残る軽自動車の馬力規制
軽自動車に関しては、現在もなお64馬力の自主規制が続いています。
軽自動車の馬力規制のきっかけとなったのは、1980年代の軽自動車馬力競争。1987年2月に発売された550ccのスズキ・アルトワークスが最高出力64馬力を達成したことが発端となり、メーカー間では自主規制の64馬力制限が生まれました。
ただし、軽自動車の場合は乗用車の280馬力規制とは異なり、型式認定には影響しない、あくまでも自主的な規制。そのため、64馬力を超えるモデルの場合も、実際には登録が可能です。
現在もなお64馬力規制が続いている背景には、そもそも軽自動車という規格自体が輸出に伴う問題も少ない「日本独自の規格」ということが関係しています。
他にも、高出力を求められないことなど、軽自動車ならではの特性が関係しています。
18世紀に生まれ、現在もなお使われる馬力の魅力
18世紀にジェームズ・ワット氏が蒸気機関の性能を表すために考案した馬力は、現在では車のエンジン性能を示す重要な指標として使われています。
馬力は、1馬力=1秒間につき75キログラムの物を1メートル動かす仕事量として定義されており、加速性能を表すトルクとは異なり、車の加速性能や最高速度を表すのに用いられているのがポイント。
現在の日本では国際基準のkWに加えて、馴染み深いPSが一部で特例的に認められており、メーカーのカタログなどでは併記されているのが一般的です。
興味深いのは、近年の電気自動車(EV)においても、馬力を性能の指標として用いている点。
18世紀の産業革命時代に、蒸気機関の性能を評価するために生まれた単位が、現在もなお車の性能評価に用いられているのです。
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