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技術革新により整備士減少が深刻化する自動車業界について

技術革新により整備士減少が深刻化する自動車業界について

近年、EVの登場や自動運転の技術開発により、注目を集めている自動車業界。その期待の一方で、近い将来訪れると言われている自動車整備士不足という深刻な問題を抱えています。

整備士不足が与える影響は、産業の成長を妨げるのみにとどまりません。社会に及ぼす影響も少なくはないでしょう。

そして、従来のガソリン車の整備と比べて、EVをはじめとした高度な技術を搭載した自動車の整備には、従来とは異なる専門知識と技術が必要不可欠です。急成長を遂げる自動車業界のこれからを担う整備士は、より高度な技術を要します。

ところが現在、EVを整備するために必要な特別な国家資格はなく、ガソリン車と同じ整備士の国家資格を取得していれば整備可能です。

しかしながら、EVに搭載されているバッテリーは電圧が高いため、ガソリン車と比べて必要な知識や技術は多く、充分に理解していない場合、感電で即死するなど重大な事故につながる恐れもあります。さらに、EVの火災は消火が難しく、発火にも慎重な対処が求められます。

これからの時代の整備士はEVをはじめとした先進車と同じく、より高度な技術と知識を必要とするのです。

今回は発展する自動車の技術と共に生まれる、整備士不足の問題について深掘りしていきます。

1 整備士の高齢化や人手不足が進む日本

整備士不足が進む原因としてまず挙げられるのが、平均年齢の上昇と整備士を目指す若年層の減少です。

2012年度時点で国家資格を保有する自動車整備士は約34万6千人。10年後の2022年では約33万4千人と、約1万2千人減少しています。この数値から自動車整備士を目指す若年層が減少していることがうかがえるでしょう。

そして現在、若年層の整備士が増えないことにより、現役で活躍している整備士の平均年齢も年々上昇し、整備士の高齢化が進んでいます。

対して整備工場数は多少の上下はあるものの、ほぼ横這いで推移しているのがポイント。つまり、一昔前と比べて整備士不足に頭をかかえる整備工場が増えているのです。

公共職業安定所に登録されている仕事の数に対する就労希望者の数、有効求人倍率には現在の整備士不足の深刻さが顕著に現れています。

2022年度における、全産業の有効求人倍率は1.31倍。対して自動車整備士における有効求人倍率はなんと5.02倍と、働き手よりも企業側の求人数が多い状況です。

全産業の平均から見て約4倍という非常に高い数値から、働き手が大きく不足していることがわかります。

2012年度の自動車整備士の有効求人倍率は1.07倍。つまり10年間で約5倍にも跳ね上がっており、その深刻さがうかがえます。

整備士が不足すると自動車産業そのものはもちろんのこと、間接的に物流などにも大きな影響を与えてしまう可能性は捨てきれません。

2 世界的にも自動車整備士不足が問題に

自動車整備士不足は日本に限らず、世界的にも問題視されています。

本項では中国、アメリカ、オーストラリアを例に整備士不足問題を見ていきます。

2-1 EV普及をリードする中国は自動車業界に必要な人材を送りこもうと新エネルギー車整備士学科を開設

中国が発表した製造業人材発展計画ガイドでは、2025年までに新エネルギー車に関連する人材が120万人。

しかしながら、そのうち整備士に関しては必要数の2割にしか達しない予想です。その対策として新エネルギー車整備士学科を開設し、自動車業界に必要な人材を送りこもうと取り組んでいます。

世界的に見てEV普及率が高い中国において、整備士不足は致命的な問題と言えるでしょう。

2-2 2031年までにEV整備士や充電インフラ技術者を含め、年間約8万人の技術者が必要なアメリカ

自動車販売台数において、中国に次いで世界をリードするアメリカも整備士問題に直面しています。

アメリカでは2031年までに、EV整備士や充電インフラ技術者を含めて、年間約8万人の技術者が必要になるとの予測です。

およそ10万人従業員を抱える世界トップクラスのEVメーカー、テスラもこの問題を深刻に捉え、整備士不足解消に向けた取り組みを行っています。同社は整備士候補養成コースをアメリカのコミュニティカレッジで開講し、国内の独立系修理工場向けに技術習得の場を提供。技術者の育成によって、将来的な整備士不足と向き合う考えです。

そして、ドイツに拠点を置くシーメンス財団は、アメリカのEV充電部門に焦点を当て、労働力育成に10年間で3,000万ドルの投資を行うと発表。ミシガン州とノースカロライナ州を対象としたプログラムを2023年に開始しました。これは、家庭用充電器から大型商用車まで、将来的なEV需要に備えたインフラ構築、設置、サービスするための人材育成を目的とした取り組みです。

2-3 整備士の平均年収と資格の課題解決に取り組むオーストラリア

広大な面積を誇るオーストラリアでは、町と町が遠く離れています。そして、自動車は人々の暮らしを支える移動手段として重要な役割を担っています。

そのため、ガソリン車はもちろんのこと、EVの整備も避けては通れない課題です。しかしながら、2030年までに約9,000人もののEV技術者が不足する可能性があると、ビクトリア州自動車商工会議所は発表しています。

オーストラリアにおいて整備士不足問題を解消するためには、平均年収と資格の2つ問題をクリアしなければなりません。

ニューサウスウェールズ州全体の平均年収はおよそ776万円とされています。オーストラリアで最も年収の低いタスマニア州は657万円。最も高い西オーストラリア州では870万円です。

しかしながら、2023年度のニューサウスウェールズ州の整備士の平均年収は、日本円でおよそ630万円と、州の平均値に届かないどころか最も所得が低いとされているタスマニア州の平均年収を下回っています。これは整備士不足を招く要因の1つと言えるでしょう。

そして、オーストラリアの整備士資格は、日本のような国家試験がありません。ただし、政府が指定する専門学校を卒業する必要があり、資格が詳細に区分されています。

国外で整備士の経歴があれば、審査はあるものの学校に通うことなく資格を取得できるのも特徴です。このような背景から人材の育成ではなく、ビザ取得のハードルを低く設定することで国外の整備士を招致する取り組みを行なっています。

3 高度化する技術を背景に自動車整備士資格制度の見直しへ

前述の通り、EVの登場によって現在自動車の技術は高度化しています。

その事実を踏まえ2027年1月、自動車業界の新時代に対応できる人材の育成と確保を目的に、自動車整備士資格は二、三級のガソリン、ディーゼル、シャシの区分と、一級の大型、小型の区分が廃止され、総合の自動車整備士に変更。資格体系と試験関係も見直される予定です。

自動車整備士資格制度は1951年に制定されて以来、70年近く変更されてきませんでした。そんな制度が、EVの普及や自動車整備士の不足に伴い見直されるということは、国もこの事態を深刻に受け止めていると言えるでしょう。

新時代に対応できる整備士の育成はもちろんのこと、複雑な資格区分を統合することで新規人材の確保にも期待できます。

具体的な区分は以下の表の通り。

現自動車整備士資格制度 新自動車整備士資格制度
一級大型自動車整備士 一級自動車整備士(総合)
一級小型自動車整備士
二級ガソリン自動車整備士 二級自動車整備士(総合)
二級ディーゼル自動車整備士
二級自動車シャシ整備士
三級自動車シャシ整備士 三級自動車整備士(総合)
三級自動車ガソリン・エンジン整備士
三級自動車ディーゼル・エンジン整備士

新資格制度では現行の複雑な区分を取り払い、シンプルに統合することで役割が明確化されています。

3-1 新規試験内容や合格発表日の前倒し

試験の内容や要件もこれまで、一級整備士試験に義務付けられていた口述試験が廃止され、カスタマーとの対話スキルを確認する採点項目が追加される予定です。

試験への適用は最短で2027年3月、一級整備士資格は2028年3月が予定され、それまでは現在の自動車整備士資格が継続されます。

さらに、試験日と合格発表日を前倒しすることも検討されています。これまでの自動車整備技能登録試験は年度末に実施され、学科試験の合否の発表は4月上旬でした。

しかしながら、合格発表までの期間から離職に至る人員も多く、自動車業界内では問題視されていました。それを受け、新制度では試験日や合格発表の前倒しを検討しているものの、受験者や養成施設への影響も考慮し、慎重に行われるのではないでしょうか。

3-2 現行資格所有者や専門学科卒業者、OBD検査について

新資格制度では現行の自動車整備士資格を所有している場合は、そのまま新資格に移行可能です。同時に新資格区分でも一級整備士を目指せる形式が想定されています。

さらに、大学や専門学校などで電気や電子をはじめとした各学科の卒業者は優遇されるのもポイント。現行では三級整備士の受験には1年の実務経験が必要とされているものの、新制度では6カ月に短縮される予定です。

そして、2024年10月には車検時の車載式故障診断装置(OBD検査)の開始も控えています。今後も従来のノウハウでは判断できない電子制御装置の整備が増えていくのは間違いありません。実務経験の短縮に関しては、このような新規技術の知識を持つ人材を育成しやすくする狙いもあるのではないでしょうか。

4 整備士不足を受け注目されるドイツ専門職業訓練プログラム

整備士不足が懸念されている近年、ドイツで広く定着している職業訓練制度「ドイツ専門職業訓練(VT)」が注目を集めています。

VTでは、およそ3年間の訓練期間で、企業で働きながら技術や技能を習得する実践と、専門知識や一般教養を学ぶ講義を並行して進めるデュアルシステムが採用されています。訓練を経て、最終的には試験により、習得した知識や技能が認定される仕組みです。

研修生は研修先企業と契約を締結し、1年の70%以上の時間をかけてディーラーでの職場内訓練(OJT)を受け、残りの時間は学校に通いながら知識や一般教養を学びます。研修中のサポートも手厚く、各ディーラーから給与や生活費サポートの資金援助が用意されているため、金銭面を気にすることなく研修に集中できます。

2024年4月時点では、ドイツ国内の328の職種に対して毎年およそ130万人が参加し、現役の訓練生はドイツにおける労働人口の約5%に及ぶのだとか。この制度はドイツ国外でも48カ国52の都市で導入され、数多くの職種でエキスパートの育成に貢献しています。

最新技術の実践経験と論理的知識を掛け合わせることで専門職を育成するプログラムは、世界的にも珍しくVTならではの取り組みと言えるでしょう。

5 日本でVTプログラムを初導入した自動車メーカー

日本企業も2024年4月よりVTの導入を開始しました。参加企業は、三菱ふそうトラック・バス株式会社(MFTBC)とBMW JAPANの2社。

本項ではこの2つの企業の取り組みについて見ていきましょう。

5-1 三菱ふそうトラック・バス株式会社(MFTBC)

三菱ふそうトラック・バス株式会社(MFTBC)は神奈川県川崎市に拠点を置く、日本国内と輸出市場に向けた小〜大型トラックの製造および、研究開発や調達・物流・生産計画などの機能も担うFUSOブランドです。

2024年にはVTのパートナー企業として参加し、新卒社員を含む若手メカニックの一部がプログラムの受講を開始しました。これは2027年3月までの3年間に渡って実施され、期間中には従来の教育プログラムと並行しつつVTの採用が予定されています。

参加メンバーは配属先の拠点での実務を通じたOJTと、提携校での座学を通して整備の基本からEVなどの先端技術を体系的に学び、3年でのプログラム修了を目指します。

VTを導入することで、従来のMFTBC新入社員が5年程度かけて習得する技能・知識レベルに相当する能力が習得できるようです。これまでもMFTBCではOJTを通して新卒社員の教育に力を入れていたものの、担当業務の違いなどによって、各技術者への教育内容に差が生じていました。

一方、VTでは各拠点でのOJTに対して体系的な教育項目が用意されているのが特徴です。さらに、ベーシックトレーナーと呼ばれる講師が毎月巡回し、教育項目の達成状況や習熟度をチェックしていく仕組みが採用されています。

つまり、VTではメカニックの技術や知識レベルの標準化が期待できるということ。

物流業界は2024年問題など、環境が厳しさをさらに増していく中、人材のスキル向上が求められています。自動車産業の未来を担う若手人材にとって、凝縮された学びを得られることは非常に貴重な経験となるのではないでしょうか。

5-2 ビー・エム・ダブリュー ジャパン・ファイナンス株式会社(BMW JAPAN)

前述のMFTBCと同様に、東京都港区に拠点を置くBMW JAPANも、2024年4月よりVTのパートナー企業として参加することを発表しました。

その目的は、モビリティ業界の発展し、高い技術力と幅広い対応力が求められる時代の到来に備え、整備士が不足している現状の課題解決が挙げられます。期間も2027年3月までの3年間と、MFTBCと同じくOJTや座学を通して、整備士の技能や知識の習得が目的です。

BMW JAPANは2020年頃から深刻な整備士不足と向き合っており、日本における次世代の自動車整備士の雇用、人材育成のためのさらなるプラットフォーム構築に関わる制度導入の準備を進めてきました。

VTプロジェクトを通して今後、日本の自動車業界に定着することが期待できるのではないでしょうか。

移り変わる整備士の在り方。自動車業界に求められる体制整備

現在、自動車整備業界は新たな技術の登場やEVの普及に伴い、これまでの在り方からシフトし、新体制の整備に取り組んでいます。そして、それらの技術を支える整備士も、進歩と共に高度な技術や知識を身につけ、その水準を上げていかねばなりません。

これからの時代は、基本的な整備はもちろんのこと、IT技術にも対応できる整備士が必要とされます。国交省は資格制度の見直しや業界をあげた働き方改革だけではなく、整備士という職業に対する仕事の魅力度向上にも取り組んでいく考えを示しています。

また、優秀な人材を定着させるとなると、技術向上だけではなく、正しい教育システムとキャリアパスの確立も求められます。

技術力のある人材教育や伴った待遇での雇用など、職業としての魅力を向上することで自動車整備工場は今後、さらにその存在価値を向上させていくのではないでしょうか。

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