2024年6月21日
ガルウィングとは?デザインだけではないその魅力に迫る
時代を彩るスポーツカーに用いられるドアデザイン「ガルウィング」。まるでカモメが翼を広げたかのようなインパクトあるシルエットから、ガルウィングを採用したモデルは80年代の人気映画やドラマにもしばしば登場します。当時、憧れを持った方も多いのではないでしょうか。
そんなガルウィングですが、意外にも初めて採用された理由はそのデザイン性ではありませんでした。実は、ひと目見てそれとわかる特徴的なデザインだけではなく、当時のスポーツカーならではの問題解決に一役買っていることで知られています。
そこで今回はガルウィングについて、その歴史や代表的なモデル紹介を交えながら見ていきましょう。
目次
1 ガルウィングとは?
車のドアに用いられるガルウィングとはルーフとドア上部にヒンジがあり、上方向に大きく開口する特徴的なドアデザインのこと。この愛称はドアを開けた際の形状がカモメ(Gull)が翼(Wing)を広げているように見えることに由来します。
スーパーカーやスポーツカーをはじめとした高級車に用いられるデザインとして広く知られていることから、憧れを持っている方も多いのではないでしょうか。一般的な横開きのスイングドアと比べるとドア開閉時に必要なスペースが少なく、利便性の高さも魅力的です。乗降性の確保を目的に車高の低いデザインのモデルで採用されることもあります。
一方でスイングドアとは異なり、オープン時にある程度上方向のスペースが必要なため、車庫や狭い駐車場では開閉が困難となること。その開閉方式の特性上、ドアや固定するルーフにある程度の強度が求められるため、生産コストがかかってしまうなどのデメリットも存在します。さらに、耐久性でスイングドアに劣る点や、事故で車体が横転してしまった際は歪みなどによってドアが開かなくなり、脱出が困難となるケースが多いのも特徴です。
そんなガルウィングが乗用車に初めて搭載されたのは1954年のこと。現メルセデス・ベンツの前身「ダイムラー・ベンツ」が発表したスポーツカー「Mercedes-Benz 300SL」に実装されました。
意外にも、300SLにガルウィングが採用された目的は実はデザイン性ではありませんでした。その理由はスポーツカーとしての性質上求められる軽量化に加え、車体の剛性確保を目的に採用された多数の鋼管を組み合わせたフレーム「マルチチューブラーフレーム(スペースフレーム)」にあります。
それにより強度を確保できたは良いものの、サイドメンバー(側部フレーム)が座席の両脇を通るフレームデザインの影響からサイドシル(ドア下部の敷居)が高くなり、一般的な横開きドアでは乗降が困難というデメリットがありました。その欠点を解決するために採用されたドアデザインが、通常のドア部分からルーフ部にかけて大きく開閉するガルウィングなのです。
ガルウィングは性能を重視した設計によって生じる、乗降性能が損なわれる問題の解決を目的に採用されたドアデザインと言えるでしょう。
2 ガルウィングが使われている代表的な車
2-1 メルセデス・ベンツ 300SL
1954年に登場した「メルセデス・ベンツ 300SL」は、市販乗用車として初めてガルウィングを採用したことで広く知られるモデルです。レーシングカーとして開発された300SLは1952年のレースでデビューを飾り、その実力からたちまち好成績を収めます。
現在ではメルセデス・ベンツの歴史を語る上で欠かせないモデルですが、当初は市販される予定はなかったそうです。しかしながら、米市場での需要が予測されたことから販売が決定。販売価格は6,820米ドル(当時の為替レートは1ドル=361円、日本では年収が12万円程度)と、当時としては非常に高額だったにも関わらず、その特徴的なドアデザインやレースでの戦績から人気モデルとしての地位を獲得しました。
後に登場したロードスターモデルではフレームが再設計され、使用感に優れた横開きのスイングドアが実装されたものの、依然としてガルウィングの人気は高かったようです。
2-2 デロリアンDMC-12
「デロリアンDMC-12」は1981年にデロリアン・モーター・カンパニーからリリースされたスポーツカーです。1985年に一作目が公開され、世界中で人気を集めた名作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場するタイムマシンのベースとなったモデルとして広く知られています。
そんなDMC-12は無塗装ステンレスボディやガルウィングなど、まるでスーパーカーの様なデザインを12,000米ドル(当時の為替レートは1ドル=220円、日本では年収が300万円程度)という手頃な価格で実現したことで、初年度におよそ6,500台を販売する好セールスを記録しました。
しかしながら1982年10月、社長のジョン・デロリアン氏がコカイン所持の容疑で逮捕されたことにより自体は一変します。同氏は後に無罪判決を受けたものの、資金繰りの悪化によって会社は倒産。それによりDMC-12は充分に人気を獲得していたにも関わらず、生産期間が1981年1月21日から1982年12月24日までのおよそ1年未満、製造台数1万台未満の希少モデルとなりました。
2-3 ブリックリン SV-1
「ブルックリンSV-1」は政府の援助もあり、1974年に「ブルックリン」からリリースされたスポーツカーです。ブルックリンは後にスバルの米国法人「スバル・オブ・アメリカ」を設立する「マルコム・ブルックリン」氏が創業したことで知られています。そしてモデル名に使われているSVは、安全性の高さを連想させる「Safety Vehicle」の略称。その名の通り安全性を確保するために搭載された大ぶりなバンパーは、当時の米国内の自動車安全基準を大幅に上回るのが特徴です。
そんなSV-1のガルウィングは、電動で開閉するのがポイント。しかしながら、ドアに41kgもの重さがあったせいか、電動開閉に最大12秒かかる、一度に両側のドアを操作すると油圧ポンプを動かすモーターに使われたコイルが溶けてしまうなどの問題があったそうです。
政府の援助によって生産されていたSV-1は1975年に投資が打ち切られたことにより生産を終了し、流通台数が3,000台に満たない希少車となりました。
2-4 オートザム AZ-1
「オートザムAZ-1」は1992年にマツダからリリースされたスポーツクーペです。2シーターの軽自動車としては異例のガルウィングを搭載したモデルとして知られています。
エンジンやトランスミッション、サスペンションなど、その多くにスズキ製の部品が用いられているのが特徴です。同車はスズキにもOEM供給され、1993年に「キャラ」として発売されました。
720kgと非常に軽量な車両重量と機敏な操作性が相まって、趣味の車としてコアな層からの人気の獲得に成功。しかしながらバブル崩壊最中に発売されたこともあり、販売台数が低迷したことから1995年に販売終了しました。
2-5 スズキ キャラ
前述の通り「キャラ」は1993年にリリースされたAZ-1のOEM車として知られるスズキの軽スポーツクーペです。AZ-1のリリースから半年を待たずして販売されました。
AZ-1からの主な変更点はロゴやエンブレム、フォグランプのみ。AZ-1と同じく1995年に販売終了しました。
3 ガルウィングではない?似ているドアのデザイン
3-1 シザーズドア
シザーズドアとはAピラーとドア前部に固定されたヒンジを軸に、上方向にハサミのように開くドアデザインのこと。ガルウィングと同じく、主にスーパーカーをはじめとした高級車に採用されているドアデザインです。
1968年にパリで行われたモーターショーにてアルファロメオが発表したコンセプトカー「カラボ」に実装されたのがはじまり。そんなシザードアを市販車として初めて採用したのは、1974年にランボルギーニがリリースしたスーパーカー「カウンタック」です。
一般的にはシザーズドアと呼ばれていますが、ランボルギーニの公式ではシザードアと呼ばれています。
カウンタックによって一躍有名になったシザードアはそれ以来、ランボルギーニの12気筒モデルの代名詞としても広く知られ、ランボルギーニドアの愛称でも親しまれています。
3-2 バタフライドア
バタフライドアはAピラーとドア前部に固定されたヒンジを軸に、上方向かつ外側に開くドアのこと。一見するとシザーズドアと同じデザインに見えるものの、ヒンジが複数使用されているため外方向に向かって羽を開くように開きます。そのためシザズードアと比べて、乗降時により広いスペースを確保できるのがメリットです。
登場したのはシザーズドアよりも1年早い1967年のこと。F1世界選手権イタリアGPが開催されるモンツォでアルファロメオによって先行公開された「33 ストラダーレ」のプロトタイプがはじまりです。
ガルウィングやシザーズドアと同じくバタフライドアも、フェラーリの「ラ フェラーリ」や「エンツォフェラーリ」、BMWの「i8」などのスーパーカーに採用されているドアデザインとして知られています。
「全天候型オープン」をキャッチフレーズにトヨタから1990年にリリースされた「セラ」は、ルーフの大部分をガラス張りにする目的から一般乗用車にも関わらずバタフライドアを採用したことで話題となりました。
3-3 ラプタードア
ラプタードアとはドアを外側に押し出し、後端が上方90度に回転しながら開閉する斬新なドアデザインです。
正式名称は猛禽類の翼を意味する「ディヘドラル・シンクロ・ヘリックス・ドア」。スウェーデンのスーパーカーメーカー「ケーニグセグ」のみが採用していることで知られています。
3-4 ファルコンウィングドア
ガルウィングに類似したドアデザインとして、テスラの「モデルX」に採用されたファルコンウィングドアがあります。ドアを開いた後のシルエットはガルウィングと同様ですが、開閉時の動作が異なるのがポイント。
ガルウィングが根本のヒンジに沿ってドアが稼働するのに対して、ファルコンウィングは上昇した後にドアの下部が跳ね上がる仕組みです。そのため、ガルウィングよりもさらに狭いスペースでの開閉を実現しています。
乗降性能に影響するドアデザイン
今回は車のドアデザインの一種「ガルウィング」についてご紹介しました。
ガルウィングを初めて実装した乗用車は1954年の「Mercedes-Benz 300SL」。そのデザイン性ではなく、軽量化に加えて剛性を確保するためのフレームデザインによって乗降性能が損なわれる問題の解決を目的に採用されたのがはじまりです。
そんなガルウィングにはランボルギーニのシザードアやバタフライドア、ケーニグセグのディヘドラル・シンクロ・ヘリックス・ドアなど、類似したドアデザインが複数あります。
一般的なスイングドア以外のドアデザインやその背景についておさえておくことで、より車についての理解を深められるのではないでしょうか。
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