2022年1月28日
MT車の魅力「クラッチ」、その仕組みや種類、交換時期や費用を知ろう
主にマニュアル車に導入されているクラッチ。
MT免許を取得する際、クラッチの扱いが慣れずにすぐエンストしてしまったり、うまく繋がらなかったりと手こずってしまったという方も多いのではないでしょうか。
AT限定で免許を取得する方が多くはありますが、旧車や軽トラなど、MT車を運転する機会がある方もいるでしょう。
しかしクラッチの仕組みに関してはあまり知られていません。様々な技術が使われているクラッチのことを知っておくと、より運転が楽しくなるかもしれません。
そこで今回は、クラッチの仕組みや種類、交換や故障についての情報を解説していきます。
目次
1 クラッチとは?
クラッチは、車のトランスミッションとエンジンの間にある、ディスク型の動力伝達装置のことを指します。エンジンの動力をタイヤに伝えたり、遮断したりする役割を担っています。
また、トランスミッションとは変速機のこと。クラッチを通してエンジンからの動力をタイヤに伝える装置のことを指します。
クラッチはクラッチディスク・クラッチカバー・フライホイールの3つで構成されています。
MT車の足元に実装されているクラッチペダルを操作することで、エンジンで発生したパワーをタイヤに伝えて車を動かせます。
これらの部位のなかで、エンジンと直接つながっているのがフライホイール。フライホイールは、エンジンの動力をそのまま伝える部位になります。
クラッチディスクは、フライホイールのすぐ隣にあります。フライホイールに圧着させることで、エンジンの動力がタイヤ側に伝達されます。クラッチディスクがフライホイールから離れればエンジンからの動力が遮断されるという仕組みです。
クラッチカバーは、フライホイールやクラッチディスクを覆うように設置されています。
MT車に慣れていない方であれば「クラッチペダルって本当に必要なの?」と思うかもしれません。確かにトランスミッションをニュートラルに入れれば駆動力の調整は可能ですが、エンジンを回しっぱなしの状態でギアチェンジするのは困難です。
そこでトランスミッションとエンジンをクラッチでつなぐことで、駆動力を伝達・遮断でき、スムーズなギアチェンジが可能になります。
2 実はクラッチにも種類がある
クラッチには主に、ドッグクラッチ・摩擦クラッチ・遠心クラッチ・流体クラッチなどの種類があります。
ここではそれぞれの特徴を説明していきます。
2-1 ドッグクラッチ
ドッグクラッチは噛み合いクラッチや確動クラッチとも呼ばれているもので、クラッチについた爪が犬歯に似ていることに由来しています。爪の断面形状は矩形や三角形、台形など様々なパターンがあり、爪の形によっては一方向にのみトルクを伝達するクラッチも存在します。
爪が噛み合う仕組みなので、滑りが起きにくくトルク伝達率が高いことが特徴の一つ。その一方で互いの回転速度に大きな差があると爪が弾いてうまく噛み合わないなどのデメリットがあります。
2-2 摩擦クラッチ
摩擦クラッチは、一般的に車のクラッチとして使われているものです。摩擦力により動力を伝達する仕組みなので、ドッグクラッチのように入力軸と出力軸の回転差によって弾かれることがありません。
また、圧着力を調整することで滑らせながらなめらかに回転数を同調させることができることも特徴の一つ。摩擦するディスクの形状によりいくつかの呼び名があり、円盤形状のものをディスククラッチ、円筒形のものをドラムクラッチ、円錐形状のものを円錐クラッチと呼びます。
中でも円錐クラッチは同じ外径で同じ圧着力のディスククラッチと比較して、トルクの伝達量を大きくできることが最大のメリット。ただし、ディスククラッチでも同じ外径のままトルク伝達量を増加させることは可能で、数枚のディスクを重ねてトルク伝達量を増やした多板クラッチと呼ばれるものがあります。
その他にも、摩擦面が潤滑油で潤滑される湿式クラッチと潤滑されない乾式クラッチがあります。主にバイクに使用されているのが湿式クラッチで、車に採用されているのが乾式クラッチです。
2-3 電動摩擦クラッチ
電磁摩擦クラッチは前述した摩擦クラッチの一種ですが、クラッチの接続・遮断を電磁石で行っていることが特徴です。
電磁摩擦クラッチが主に使用されているのは、車のエアコンにあるコンプレッサーのプーリー部分。その他に、過給器の一種であるスーパーチャージャーにも使われています。スーパーチャージャーは高回転域で駆動ロスを発生させるため、電磁摩擦クラッチを用いて高回転域でスーパーチャージャーとクランクシャフトを遮断する仕組みになっています。
基本的にエンジンからの動力を伝達するクラッチには採用されませんが、1960年代にはオートクラッチ操作を目指してシフトスイッチと連動して電磁クラッチを作動させる2ペダルMT車が作られた過去があります。
2-4 流体クラッチ
流体クラッチは前述してきたクラッチとは違った構造をしており、流体を用いてトルクを伝達する仕組みのクラッチです。
その構造は液体の入った密閉容器に2つのタービンが向かい合わせに設置され、それぞれのタービンは入力軸と出力軸に繋がっています。入力側のタービンが回転すると液体がかき混ぜられ、出力側のタービンが液体の流れを受けて回転する仕組みです。
3 AT車ではクラッチと同じ役割を果たす部品「トルクコンバーター」が
クラッチといえばMT車のみの装備であるイメージが強いかもしれません。しかしAT車にはクラッチペダルはありませんが、流体クラッチを応用した「トルクコンバーター」という部品が備わっています。
トルクコンバーターは、流体の運動エネルギーを活用してトルクを増幅させ、スムーズに発進させる役割を持つ部品です。流体を使用するためクラッチよりも伝達・遮断がスムーズになる特徴があります。
クラッチを操作した際に発生するMT車特有の衝撃も、トルクコンバーターにはありません。MT車のようなクラッチ操作をせず走行が可能なAT車は、トルクコンバーターの活躍でスムーズな運転を実現しています。
アクセルを踏んでいなくても車が進む「クリープ現象」も、トルクコンバーターによる現象であることを覚えておきましょう。
4 クリープ現象は実はトルクコンバーターが原因
AT車に乗っている方はアクセルを踏んでいなくても車が勝手に前進する「クリープ現象」は身近だと思います。
実はこのクリープ現象、AT車のトルコンによって引き起こされる現象なんです。
なぜAT車にクリープ現象が起こるかというと、トルコンのポンプインペラがアイドリング時でも回転するため。僅かながらも抵抗しようとしてもう片方のタービンランナを回そうとするからです。
AT車はニュートラルに入れない限り、駆動力を完全に遮断することはできない仕組みになっています。
5 クラッチを交換すべきタイミングは?
クラッチは使用するたびに劣化するパーツでもあるため、長期間乗り続けることで当然交換が必要になります。
半クラッチを多用した運転の場合はクラッチが磨耗しやすく、5万km程度での交換が必要なことも。対して、丁寧にクラッチを繋ぐ運転であれば10万kmを超えても問題ない場合もあります。
クラッチが極端に摩耗するとクラッチ交換のみならずフライホイールの交換も必要になってしまうので、丁寧な運転に自信のある方でも7万kmに一度はクラッチを確認することを推奨します。
走行距離に応じて交換の時期は変動しますが、調子が悪くなったと感じた場合はすぐに交換しましょう。
6 クラッチが故障した場合
クラッチは消耗品であるため、いつかは寿命がきます。破損や摩耗などが原因でクラッチがスムーズに繋がらなくなった時が、故障のサインです。
この状態で走り続けてしまうと、走行自体ができなくなるため注意しましょう。他にも、クラッチから異音や異臭が発生した場合も故障のサインの一つ。
クラッチが故障した場合は走行不能になってしまうため、異常を感じたタイミングで修理が必要です。また、万が一走行中にクラッチが故障してしまった場合は、電話でロードサービスを呼んで対応しましょう。
7 クラッチ交換の費用
クラッチの交換には当然費用が発生します。車種によって変動するため必要な金額も変化してしまいますが、エンジンの脱着が必要かどうかに加えて、純正のクラッチにするか社外製の強化クラッチにするかでも費用が大きく異なります。
基本的には社外製の強化クラッチのほうが費用は上がりがちです。ただしクラッチの耐久性や性能が純正クラッチよりも優れていることも多く、価格が高いだけの価値はあります。
エンジンを外さない場合は5万〜10万円程で交換可能で、エンジンを脱着する場合は10万円以上かかることも少なくありません。
交換自体は1日ほどで終わることが多いため、仕事で使用する車の場合でもそこまで大きな時間のロスにはならないでしょう。
8 クラッチの寿命を延ばすためのコツ
クラッチペダルを長持ちさせるには、大きく4つのコツがあります。
【コツ1】
一つ目にクラッチペダルに足を置いたままにしないように意識するといいでしょう。
クラッチは、いわゆる「半クラッチ」を多用すると早く摩耗してしまいます。また、エンジンの回転を上げたままの走行・クラッチペダルに足をのせてたまま走行を続けるのもクラッチの寿命を縮めてしまう原因の一つです。
【コツ2】
エンジンブレーキは、適度に使用すること。
これもクラッチの寿命を伸ばすポイントの一つ。
ギアをニュートラル以外に入れて、ギアとタイヤの摩擦でブレーキを掛ける「エンジンブレーキ」は坂道などで適切に使えば快適に運転できます。しかしながらエンジンブレーキを多用してしまうとエンジンから伝わる動力がないまま惰性で走ることになり、クラッチにも負担がかかりやすくなってしまうことを覚えておきましょう。
【コツ3】
急発進や急加速を避けること。
クラッチがエンジンとギアの間を完全につなぐ前に、再度ギアチェンジを行うとどうしても負荷がかかってしまうものです。急ぎたい気持があるかもしれませんが、事故に繋がる可能性も高くなるためゆとりを持った運転を心掛けましょう。
【コツ4】
定期的なメンテナンスを行うこと。
当たり前ですがクラッチの歪みや緩みなどがないか、定期的に調節することが大切です。法定点検以外にも数か月に一度はチェックすることをおすすめします。
安全な運転のためにも定期的にクラッチの点検を!
運転しがいのあるMT車、その代名詞とも言えるクラッチですが点検を怠ると事故に繋がってしまうかもしれません。
外に出ている部品と違ってなかなか摩耗に気づきにくいため、気が付いたら壊れてしまったなんてことも。
安全なカーライフのためにも必ずこまめな点検を行ってくださいね。